冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした


 どうしてだろう。さっきまであんなに気分が落ち込んでいたのに、少しだけ元気になったみたい。

 最悪の元彼に出会って、心の奥底に押し込んだはずの怒りや悲しみが込みあがり、背丈も力も敵わない男性への恐怖心もあったのに、今は少しの不安もなかった。

 からかわれて明るい気持ちになるなんて、不思議ね。

 でも、励まそうとしてくれたのは、何も言われなくても伝わってくる。


「これからは変な男に尻尾振るんじゃないぞ」

「し、尻尾は振っていません」

「当たり前だ。隙だらけなのも気を付けろよ? いつでも俺が居合わせるとは限らない」


 それだけ言い残して、駐車場へ向かう彼を見送る。

 仕事の途中にわざわざ助けてくれた。困っている人を見過ごせない根本は、五年前のままだ。

 思えば、いつも彼は流星のようにピンチの場面に現れる。

 ニューヨークでの一件も、ハルナホールディングスのパーティーで瑠璃川さんに絡まれた夜も、さっきだって。

 目には見えない縁で結ばれていると勘違いしそうになる。

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