冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした
目を丸くする私に、彼は続ける。
「店員から忘れ物の連絡があったんだ。身に覚えはないか?」
そういえば、レストランに潜入したとき、瑠璃川さんと鉢合わせて、化粧室で荷物をぶちまけた。
焦って拾い集めたときに、つい見逃してしまったんだろう。あのときは、早くその場を去りたくて仕方がなかったもの。気づかなくても無理はない。
「ありがとう。なぜ、椿さんに連絡がいったのかしら」
「俺の名刺が挟まっていて、ホテルに連絡が入ったんだ。受け取ったときに、本人確認で少し中身を見た」
名刺と聞いて、ピンと来た。
「それって、前に、私用のメールアドレスを書いてもらった名刺?」
すると、彼は静かに首を横に振る。
手帳の表紙を開いてポケットに挟まっていたのは、二枚の名刺だ。
ひとつは、手書きのメールアドレスが載っているもの。そして、もうひとつは……
“久我ホールディングス ランコントルホテルニューヨーク事業EAM 久我 椿”
「どうして、藍がその名刺を持っているんだ?」