冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした


 椿さんの問いかけに、瑠璃川さんの大きな瞳が見開かれた。

 表情がこわばり、動揺が感じられる。


「なんのことかしら。身に覚えがないわ」

「シラをきるつもりですか。レストランで藍の手帳を拾ったあなたが、レシピの写真を撮って向坂さんに送った。そうでしょう?」


 切り込んだ彼のセリフは、瑠璃川さんの余裕を崩すのに充分だった。


「まさか、スマホの写真フォルダを見せろとか言い出さないわよね? いくら椿でも、人の携帯を確認しようだなんて、プライバシーの侵害よ」

「強要するつもりはありません。でも、藍の手帳を開いて勝手に写真を撮り第三者に送る方が、よっぽどプライバシーの侵害だと思いますよ」


 そのとき、ある仮説が思い浮かんだ。

 ランコントルホテルから駅に向かう道の間にあるレストランで、私が瑠璃川さんと鉢合わせたあの日。

 牽制されて、化粧室に手帳を落としたまま帰ってしまった。

 あのとき、瑠璃川さんが拾って中身を見たのなら、宇一さんとレシピを繋ぐ存在になりうる。


「事は瑠璃川さんだけの問題ではありません。レシピの盗用が行われているんです」


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