冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした

 その夜から、仕事終わりに厨房を借りる日々が続いた。サンプルをいくつもつくったり、たまには椿さんに試食をしてもらったりしながら一週間の時が過ぎる。

 そして、ようやく形になったのは、締め切りの二週間前だった。

 他には誰もいないカフェスペースで、椿さんとテーブルに向かい合わせで座る。

 わざわざ仕事帰りに私の練習に付き合ってくれている彼の前には、新たなチョコケーキがあった。

 光沢のある生チョコで包まれたケーキを、椿さんがひとくち食べる。


「……美味いな。俺はプロじゃないから細かいことは言えないけど、口溶けが柔らかくて好きだ。これはブラックチョコレートなんだな。苦みがちょうどいい」

「そう。中は果実のソースを使ってみたの」


 フランボワーズとラズベリーをふんだんに使った甘味と酸味のあるソースが、ブラックチョコレートと良いバランスになるように工夫をした。

 真っ黒なチョコケーキには深紅の薔薇をかたどった飴細工が乗っている。


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