冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした
思わず吹き出して、くすくすと肩を揺らす。
椿さんは化粧品にあまり詳しくないんだ。男性だったら当たり前かもしれない。
見かねた女性スタッフがアドバイスをくれて、なんとか持ち前の器用さで使いこなしたようだが、光景を想像するだけで頬が緩んだ。
眠気のせいでたどたどしい説明は、クールで的確な指示を出す仕事モードより幼くて、微笑ましくなる。
彼はリップクリームのような形の肌色のクレヨンをイメージしていたらしく、グロスを逆さまに引き抜いたと分かった。
慣れなくても、わざわざ使おうとしてくれたんだ。普段は隙がなくてカッコいい大人の男性なのに、今はなんだか可愛い。
「お役に立てたなら良かった。気にしないで。今度、化粧品の種類を教えようか?」
少し冗談まじりに言うと、椿さんはわずかに口角を上げて優しく答えた。
「俺は二度と使わないだろうけど、藍に贈れるように覚えるのも良いな」