冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした


 胸が高鳴り、甘酸っぱい爽やかな感情が広がった。

 無防備でいてはいけない。彼はこうやって女性のハートを撃ち抜くセリフをスマートに返すのが上手いんだ。

 少しだけ心の距離が近づいた気がして、穏やかな気持ちに包まれる。

 やがて、掴んでいた指がベッドに沈み、心地よい寝息が聞こえ始めた。

 長いまつ毛を伏せた綺麗な寝顔だ。たしかに、これは化粧品なんていらないだろう。

 後ろ髪を引かれつつ出勤した後も、自宅で休んでいる彼の様子が気になっていた。いつもは少し超過して働くけれど、定時ぴったりに上がって帰宅する。

 玄関を開けたとき、オリーブオイルのいい匂いが香った。

 部屋着にしているダークトーンのカーディガンをTシャツの上に羽織った、黒いジョガーパンツ姿の椿さんが、キッチンに立っている。


「おかえり」


 こちらに顔を向けた彼は、今朝よりだいぶ体調が良さそうだ。まくった袖からは、男らしい筋肉質な腕が覗いていた。


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