冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした


「ただいま。いい匂いね。料理をしていたの?」

「久しぶりに時間があったから、パスタを茹でていたんだ。藍の分もある」


 キッチンのカウンターには、トマトとバジルの乗った冷製パスタの皿が二枚ある。

 すごい、お店で出てくるお洒落さだ。さっぱりしていて美味しそう。料理もできるなんて、この人には弱点がないのかしら。


「私の分までありがとう。よく休めた?」

「ああ、こんなに熟睡したのは久しぶりだよ。料理をする気力が湧くくらいには回復した」


 手洗いをして部屋着に着替え、向かい合ってテーブルに着く。「いただきます」と手を合わせて、一緒に夕食をとった。

 ちょうど良い塩加減で、パスタの硬さも好みだ。


「美味しい。これ、後で作り方を聞いてもいい?」

「時短料理だし、結構簡単だよ。今度一緒に作るか」


 なんだか、今日はいつもと違う。

 椿さんは同じ家にいても他人のように感じていたけど、今はちゃんと夫婦になったような気分になる。

 向かい合って食事をして、こんな平和な会話をする日が来るとは想像もしていなかった。


「これから一緒に帰れた日は、こうやって食事をとらないか? 藍が良ければ」


 つい、フォークを持った手が止まった。


「構わないけど、どうして? 食事はお互い好きな時間に用意して食べるって言っていたのに」

「今回の件で、一緒に暮らしてるんだなって実感がすごく湧いたんだ。俺は自分勝手に過ごしすぎてた。仮面夫婦だとしても、妻を大事にするのが夫の役目だろ? 藍のことも労りたい」


 思いがけないセリフに胸が高鳴る。

 彼は仕事に重きを置いていただけで、自分勝手な印象はなかったけれど、自分の体調にもっと気をかけてくれるようになれば、私も嬉しい。

 迷惑をかけたお詫びという意味にもとれるが、以前よりもずっと歩み寄ってくれている。

 ルームシェアから一歩前進だ。

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