冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした
人の耳は陰口を拾うのに長けている。声の主はわからないものの、一度聞こえてしまうと、無意識に聞き耳を立ててしまう。
「あの外見だし、噂通り派手に遊んでいるんだろ。飽きて捨てられたって泣いてる女がいたぜ」
「カジノに入り浸っているらしいぞ。天下の久我は、金持ちの中でも住む世界が違うよな」
今、久我って聞こえたような。もしかして、全て椿さんの悪評なの?
つい視線を向けようとしたとき、椿さんに肩を抱かれた。隣に立つ彼は、穏やかな表情だけど目が笑っていない。
「相手にするだけ無駄だ。言わせておけ」
慣れた様子で耳打ちをされて、行き場のない怒りと悲しみが心の中で混ざり合う。
「これ見よがしに言いたい放題だな。ウチのゲストがすまない」
「奏さんが謝る必要はありませんよ。久我の息子というだけで目立っている自覚はありますし、自分より若い分、調子に乗っているようで気に障るんでしょう」
申し訳なさそうな顔の榛名さんに、椿さんは至って大人の対応に徹した。
帰りたくなると予言していたのはこういう意味だったんだ。悪意のある言葉が、ひそひそと遠巻きにささやかれている。