冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした
私は彼の過去を知らないけれど、仕事人間と断言していいほど多忙な日々を送っているのを側で見てから、軟派な印象を抱いたことはない。
たしかにスマートで女慣れしているし、スペックもルックスも良いだけにモテるんだろうけど、初対面で氷のような態度で追い払われた事実がある。
陰口をたたく中には女性もいるようだ。もしかして、振られた腹いせに、事実無根の悪い噂を吹聴しているのかな。
「藍。しばらく奏さんと仕事の話をするから、好きなドリンクを選んできたらどうだ?」
バーカウンターを視線で指された。
奏さんにも「その方がいいな。ビジネスの話題は退屈だろう」と促されて、お辞儀をしてその場を離れる。
気を遣ってくれたのはすぐに察した。
聞いていて気分良いものではなかったし、妻となった私に標的が移るのを避けてくれたのだろう。
ドリンクを飲む気分にもなれないわ。少しだけ風に当たろうかな。
会場を出て、展望デッキに行こうとしたとき、聞き覚えのある声が私を呼び止めた。
「こんなところまで椿について来るなんて、身の程を弁えない女」