冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした


 母親が辰巳なのは、そもそも籍を入れていないからだったんだ。椿さんが認知をされ、仕事のために名字を変えさせられているのなら、親子の確執があるのも納得できる。

 将来に期待をして傷つく前に、か。たいそうな助言ね。

 小さく息を吐いた私に、彼女は眉を寄せる。思った反応と違ったのか、こちらの様子を窺っているようだ。


「瑠璃川さん。ひとつ勘違いをしているようだから、言っておきますね。私、椿さんに幸せにしてもらおうなんて少しも思っていませんから」

「えっ」


 突然のカミングアウトに、ひどく動揺したらしい。

 平然と答えた私はさらに続けた。


「椿さんが他の女性と多く関係を持っていて、本気にならずに遊んでいる男性だとおっしゃりたいのですね? たとえ、昔そうだったとしても、今の彼にそんな余裕はありません。あなたには想像もできないほど多くのものを背負って、仕事に向き合っています」


 寝る間も惜しんで頭に情報を詰め込んで、倒れそうになるほど追い込んでいる。それが普通だと本気で思うほどに。


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