冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした


「久我を名乗るのが本望じゃないとしても、彼は責任を投げだす人ではありません。そういう生き方を選ぶ椿さんを伴侶として受け入れて、本気で理解しているならば、仕事に捧げる気持ちを自分に向けて欲しいなんておこがましくて願えないはずです」


 結婚に期待をしないのは変わらない。

 ただ、ひとりの人間として彼を支えたい気持ちが芽生えた。

 それが愛ではないとしても、彼が返してくれなくても、私が選んだこの関係は、誰にも文句は言わせない。


「椿さんがどの女性にも本気にならないのなら、それはあなたにも言えるでしょう。お飾り妻として忠告しておきます。私を嫌うのは自由ですけど、構ってもらえないからといって、夫の仕事の妨げになるような行動は控えてくださいね」


 相手に釣られないよう、こちらは冷静に丁寧に言葉を選んで伝えたつもりだ。

 しかし、彼女の方は怒りに火がついて顔が紅潮していて、震える握り拳から完全に神経を逆撫でしてしまったのだとわかる。

 ああ、まずい、言いすぎたかしら。

 そういえば、次に会ったら逃げろと言われていた。椿さんがしていたように、なにを言われても穏便に済ませるべきだったかもしれない。

 でも、間違ったことはしていないと断言できる。

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