冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした


 不釣り合いだとか、図々しいとか、自分をけなされる分にはなにを言われてもよかった。でも、勝手に椿さんの過去を踏み荒らす真似をして、さらに寂しがりやの遊び人だと言われて、嫌な気分になる。

 それは同情ではない。単に、目の前の彼女に腹が立って、言い返したくなったのだ。

 きっと、椿さんはなにも言わないから。自分が傷つくときは、いつもの笑みを浮かべて隠すから。

 仮面夫婦の妻として、夫を下げる発言をされて黙ってはいられない。


「藍」


 名前を呼ばれて振り返ると、腕組みをした椿さんが廊下の壁に体重をかけてこちらを見ていた。

 声をかけるタイミングを窺っていたらしい。もしかして、全部聞いていたのかしら。

 長い足で優雅に歩み寄り、スマートに腕を取られる。


「帰るぞ」

「パーティーはいいの?」

「奏さんに挨拶はできたからな。長居をする必要もない」


 流れるように手を握られた。

 彼は、私を導きながら瑠璃川さんへ視線を向ける。


「ゴシップ好きは結構ですが、大概にしてくださいね。それから……久我の名を貶めたことは、今後一切、取り引きをしない表明だと受け取ります」


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