冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした
「親父に行動を縛られていた俺にとって、バスケだけが生きがいだった。怪我をした当時はだいぶ落ちたけど、心の整理がついて、今、ここにいるよ」
思いがけない昔話が聞けて、心が温かくなる。こうやって、過去に踏み入る話はしてこなかった。
色々な悩みや葛藤と向き合って、今の椿さんになったんだ。
新しい一面が知れて嬉しく感じていたとき、ふと、彼が口を開く。
「そういえば、藍はランコントルカフェに就職する前、有名洋菓子店のアンジュで働いていたんだよな?」
黒い過去に触れる話題に、ドキッとする。
「うん……私、伝えたっけ?」
「入籍前の顔合わせで、藍のお義母さんが言っていただろ? 俺、怪我で入院していた頃、アンジュのお菓子をよく差し入れされてさ。今思えば、絶望から現実に引き戻してくれたのは、あのお菓子だったかもしれない」
そのセリフに、ニューヨークでの会話が脳裏をよぎった。