冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした
「悪い、商談相手の到着が早まったらしい。俺はもう戻るけど、藍はどうする?」
「私は休憩が終わるまで、もう少しここにいるわ」
「わかった。昼休憩の時間を合わせてくれて助かったよ。それじゃあ」
返事をして、颯爽と去っていく背中を見送る。
ちょうど話が途切れてよかったかもしれない。自分でも忘れようとしていた思い出は、彼にとって取るに足らない過去だもの。
その後、帰宅時間は被らず、すれ違いの日々が続いた。家で顔を合わせても、出勤前のわずかな時間くらいで、ゆっくり話す余裕はない。
そうこうしているうちに、大きな仕事を控えた土曜日となった。
予定されているウエディングは、親族だけでなく、友人や会社の関係者を呼ぶ六十名ほどの規模だ。
華やかなシャンデリアがきらめく披露宴会場は、正統派ながらもトレンド感があり、ランコントルホテルの伝統も感じられるラグジュアリーな空間である。
インカムで連携をとりながら、準備していたブッフェは問題なく終わり、ほっと一安心した。