籠の中の鳥は今宵も熱い寵愛を受ける【完結】

「仕事はどう?」
「楽しいです。和穂さんと一緒にいることも多いのでヒヤヒヤしますけど」
「ヒヤヒヤ?」
「だって、私たちが婚約していることは誰も知らないから」
「…」
「結婚してから会社には伝えようかと思っています。あ、和穂さんはそれでいいですか?」
「もちろん。でも、別に結婚が決まっているのだからバレたってなんの問題もない、そうじゃないか?」
「それはそうですね…ただ、やっぱりトラウマがあるので。周りに報告済みなのに破棄になることは…さすがに、」


 目を伏せると、彼が手を握ってきた。大きな手が私のそれに重なると勢いよく顔を上げた。

「それは心外だな。俺が自ら白紙にするって?」
「あ、いえ…そういうわけではないのですが、もしものことがあると思うんです。孝太郎ともそうでした。未だに彼が浮気をした事実を信じられません」
「ふぅん。もちろんはすみの言っていることもわかる。それを当初から聞いていたからね。でも、君の元カレと一緒にしないでくれるかな」
「ごめんなさい、あの…」


 珍しく不快感を前面に出す和穂さんに慌てて謝罪をした。

たとえ不安だったとしても、元カレの名前を出すのも失礼だし和穂さんを信じ切れていない自分がいることも嫌だった。




 もう一度謝罪しようとするが、既に彼の手が私の手から離れていた。

「もういいよ。とりあえず寝よう、明日は色々と気疲れするだろうから」
「…はい」

怒っている雰囲気はなかったが、先ほどに比べ明らかに冷たい声だった。

 彼を信じきることが出来ていない、それは今後の結婚生活において一番重要なことではないか。そして今の発言で彼を傷つけたのも事実だ。
バタン、と彼の部屋へ続くドアが閉じられた音がした。
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