籠の中の鳥は今宵も熱い寵愛を受ける【完結】

「私、はすみ先輩のことめちゃくちゃ尊敬してるんです」
「そういうふうには見えないんだけど」
「そんなことないです!!」

 少し前までは佐伯先輩と呼ばれていたのにいつの間にかはすみ先輩になっていた。彼女は既婚者や彼女持ちの社員にばかり手を出しているイメージが強い。
金魚のフンのようについて来る彼女にいら立ちが募るが、孝太郎がこの子を好きになったという事実の方が辛い。

「あ、そうだ。教えてほしいことがあって。私最近料理を頑張っていて。孝太郎さんの好きな食べ物って何ですか?」
「…」

 足が強制的に止まる。ちょうど帰宅ラッシュでトレンチコートを羽織った仕事帰りの会社員たちが歩道で立ち尽くす私たちの脇を通りすぎる。
手入れの行き届いた髪を揺らして私の顔を覗き込む。

「どうかしましたか?あ、孝太郎さんのことですか?でももう別れているし、はすみ先輩は婚約者がいるんですよね」
「…」
「はすみ先輩?」

 ほくそ笑む彼女に何も言い返せない自分が悔しい。もう孝太郎のことは何とも思っていないし、せっかく前を向こうと思っているのに。
無視をして帰ろうとすると、「はすみ」と私の名前を呼ぶ声が聞こえて隣にいる千佳と一緒に振り返った。

「…和穂さん」

 今日の午後に会ったばかりの“婚約者”である和穂さんが近づいてくる。
「え…?」

隣にいる千佳の顔が強張り、初めて戸惑った表情を見せた。
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