僕らの恋愛事情【完】 ~S・S更新中~
”どうしたの?”
”相談に乗るよ?”
”話したい事あったんじゃない?”
話しかけるたびに横にブンブンとふって否定してくる。
俺の言葉は見事に役に立つことはなかった。
『あの人に悪いから』
そう話す彼女。
もめごとの愚痴を他人に漏らさないなんて、なんて強い人なんだと思った。
穂香って、芯がしっかりしてて心が強いんだとも。
ほぼ無言のまま、流れていく人や車を眺めていた。
寒いのに心地よくて、終電ぎりぎりまで俺たちは手を握りながら体を寄せ合ってベンチに座ってた。
俺が、普通の男だったらな。
このまま、ホテルに連れて行くのに。
そんな勇気が本当にあるかどうかわからないけど、このときはそんなことを思っていたんだ。
あんな冷たい先輩なんて辞めて、俺にしなよ・・・とかさ。
そう言ってベッドへと彼女を誘い込んで、彼女と温もりを分け合いたいって、強く思った。
それから暫く経って紫音先輩に呼び出された。
「おれ、一か月新人研修で東北行くから」と。
*****
「へぇ――、って、俺の話聞いてました?全然違うこと言ったんですけど?」
「ん?何だっけ」
「だから・・・。ほのを泣かせたまま置いてくなって話ですよ」
「ああ、なんだ、そんなこと」
「そんなことって」
それに『なんだ』ってなに?
冷たすぎるだろ?
「つき合ってるんでしょ?あれじゃ仲直りどころか、気持ち離れちゃいますよ?いいんですか?」
「・・・・・・・」
「な、何すか?」
怒ってるような顔つき。——だって、ほんとの事でしょ?
そう思って睨み返すけど、目をつぶって溜め息をついた先輩は、何かを諦めたような顔つきになって、フっと小さく笑って口角を緩く上げた。
もう一つ、おまけみたいに溜め息をつく。
「…いやあ、何も…。———無自覚って…罪だなぁ、って思って」