エリート弁護士は契約妻と愛を交わすまで諦めない
こちらも機嫌がよくなったところで、朔は体を捻ってソファーの後ろから何かを取り上げた。私から死角になっていたそこから現れたのは白い紙袋。それをテーブルの上に置く。
「俺からはこれ」
「え?」
「ちょうどできたって連絡があって、昨日取りに行った」
そう言いながら紙袋を開けて中から宝石箱をふたつ取り出す。そこでピンときた。
「結婚指輪?」
「正解」
私の入院期間が暇すぎて、その時にカタログを見てふたりで決めていた。お互いの名前を入れたので少し手元に届くまで時間がかかったのだ。
箱を開けた先のプラチナリングは、照明の下で煌めいていて、私は思わず手を合わせる。
「わぁ!いい感じ!」
おそろいの指輪にテンションが上がる。はしゃぐ私に朔はスッと手を差し出した。
「お嵌めしても?」
「もちろん、お願いします」
私は左手を彼の手のひらに載せる。彼はエスコートするように優しく手を握りながら指輪を薬指に嵌めていく。婚約指輪の時はまだ触れられなかった。ここまで来れた道のりに感慨深くなる。今度は、朔の手にも私が指輪を嵌める。問題なくお互いの指に収まった。
「ぴったり」
「だな。やっぱり、こういうのあると夫婦って実感あるよなぁ」
「朔でもそう思うんだ?指輪とかめんどくさがりそうなのに」
「いつもはそうだけど、形だけでもいいから、夫婦らしくしていればいつかはお前が俺に惚れてくれるんじゃないかって期待はあった。いつ心変わりで『やっぱり朔とは無理』って言われるかヒヤヒヤしてたから」
「それを言うなら、私もだよ!朔、能面すぎ!」
「そうか?俺の気持ちなんてわかりやすすぎだろ。そもそも好きじゃない女に手出さない」
「私だって好きでもないのに身体許すわけないでしょ」
「お前って押しに弱いところあるから、流されたのかと」
「もー!私のことなんだと思ってるの!」
「俺のこと弟みたいって言ってたし」
「そ、それは、照れ隠しで……」
「マジで傷ついたんだからな」
「う……ご、ごめん」
「俺のこと可哀想で見捨てられない慈悲深い女だと思ってた。そういう優しいところが好きでもあったから」
朔がやや遠い目をして言う。幼い頃、横浜に預けられた時のことを思い出しているのだろうか。少し心許ない顔つきが、少年の頃と同じだったから、咄嗟に朔の手を掴む。
突然ガシッと掴まれた朔は目を丸くするけど、離さない。
「わ、私だって好きだった!だけど、朔からのメールが来なくなって、ふ、フラれたって思っちゃったよ。だから、連絡するのもできなくなって……」
私ができることは、精一杯あの頃の気持ちを伝えて、朔の不安が二度と湧き上がらないようにするだけ。それが、感情が舞い上がって泣き言みたいになる。愛の告白に慣れなさすぎる。というか、私が朔に好きと言ったのは、あの事故の日以来だ。
萌のしたことを伝えてお互いの誤解は解けたけど、まだ当たり前に傷は残っている。
言いたいことが上手く伝わらなくて、やきもきする私に、朔がふっと笑みを溢す。そして、今度は彼が私の手を握り返した。
「俺だって、お前に好きな奴できたってメール見て、フラれたと思った。すげーへこんだ。今度、高橋たちに会ったら、奢ってもらおうぜ」
「ふふ、そうだね」
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