エリート弁護士は契約妻と愛を交わすまで諦めない
萌とは今度夫婦揃って食事をしようと言っている。私の事故を聞いて号泣しながら駆けつけてくれた親友を思い出すと、昔の過ちにだけ囚われているのももったいない気がした。
萌には何度も助けられてきたのだから。
「それにこのタイミングだったから、とんとん拍子に結婚できたのかもしれないし」
「まぁ、そうだな」
私たちも丸く収まったのだから、これ以上誰かを責めるのはやめたほうが心も楽だ。
「あ、でも、たまに香水の匂いがスーツについてるんだけど?」
「香水?」
「そう、たまーにだけどね」
責めるのをやめようとしたものの、疑惑を放置しておけない。朔は首を捻った後、「あっ」と目を見開いた。
「多分、クライアントの人かもな。香水の強い人がいるから。母さんくらいの歳で女社長で気さくなのはいいんだけど、香りはちょっと慣れないな」
朔は慌てる様子もないし、嘘をついていなさそうだ。安心して胸を撫で下ろした。
里見さんでもなければ、別にいい感じの人がいるわけでもなかった……。
あの苦悩の日々は何だったのだろうと虚しくなる。でも、全部早とちりした私が悪いのだから、仕方がない。
「柚瑠」
「なに?」
「お前のことを愛しているから、ずっと一緒にいたい」
仲良く指輪を嵌めた指と指を絡ませる。朔が私を真っ直ぐ見つめてくるから、一度口を閉じ、思案してからまた開いた。
「私でいいの?私、料理とか家事下手だよ」
「そんなもんさせるために、結婚するんじゃねぇよ」
「毎食カレーかシチューになるかもよ」
「全然いける。っていうか、俺も料理するし、面倒な時とかは外食なり出前にしたらいいだろ。完璧な妻の偶像に取り憑かれなくていい」
朔の秀麗な顔が呆れを含む。でも、すぐに真剣な表情に戻る。
「俺は普通の日でも共に生きていって、くだらないことで笑えて、お前に何かあったら一番にかけつけられる権利がほしい」
そんなことを言い出すから、吹き出してしまった。せっかく決め台詞を笑われて朔は羞恥で頬を染める。
「な、なんだよ」
「権利って弁護士っぽい」
「そうか?」
指摘を受けて後頭部をがしがしと掻く。彼が照れた時の癖だ。昔と変わっていない。
愛おしさに胸がきゅっと鳴る。
「私も、朔と一緒に笑顔で満ちた家庭を築きたい。そして、あなたが大変な時、支えられる力と一番傍にいられる権利がほしい」
何があっても一番に傍で支えて、この人と生きていきたい。
「愛してる」
ふたりの声が重なった。目を丸くしてお互いを見つめるのも、その後すぐ破顔したのも同じタイミング。そして、唇を寄せ合うのも。
重ね合わさったところから朔の温もりが伝わってきて、心臓の音が大きくなる。ドキドキするけど、心地よくて安心する。
気持ちよさにうっとりと目を閉じていると、唇の温かさが消える。瞼を開けたら、朔の顔が離れていくのがゆっくりと見えた。
名残惜しくて自然と後を追いかけて自分からキスした。朔の驚いて瞬きする睫毛がこそばゆい。
でも、それすらも愛おしくて、合わさった口元が緩む。こんなに積極的な自分を初めて知る。それも悪くない。高揚感に任せて朔を抱き締めると、朔の腕で引き剥がされた。
嫌悪や困惑というよりは、すごく慌てている。
「ゆ、柚瑠」
「何?」
「これ以上はやばい……その……怪我もあるし」
ごにょごにょと朔にはめずらしく歯切れが悪い。彼なりの優しい葛藤が見られて、私は微笑んだ。
「大丈夫」
「え?」
「まだリハビリとかあるけど、激しくしなければ」
「あ、そ、そうか。うん。頑張る」
コクコクと頷く。
小さな男の子みたいで可愛い。朔を見てクスクスと笑っていたら、身体が宙に浮いた。朔がソファーから私を抱き上げたのだ。そのまま、迷いなく寝室へ。私が怪我をしてから朔の広いベッドを使っている。クローゼットに敷いた布団や客間のシングルベッドでは狭いだろうと朔が言い、私が大丈夫というのを全てスルーして、自分は隣の床に布団を敷いて寝る。
だから、もうそこはふたりの寝室なのだけど、ドアが開いた先に見えるベッドに鼓動がさらに速さを増す。見慣れた光景でも、やはり今日は特別。
ゆっくり下ろされたシーツの冷たさに肌が粟立つ。でも、すぐに朔の熱い身体に包み込まれて消える。
「柚瑠」
今日、雨は降っていない。でも、匂いも声も肌も、早鐘を鳴らす彼の心臓の音が自分のものと混ざり合う。
「あの時と一緒だね」
愛おしくて、彼の耳元に寄って囁く。ぐっと息を呑む音がした。
硬直してしまった朔の顔を窺おうとしたら、嵐みたいなキスが降ってくる。荒々しいけど、深く愛してくれるキス。瞬く間に私はそれに溺れた。
END
萌には何度も助けられてきたのだから。
「それにこのタイミングだったから、とんとん拍子に結婚できたのかもしれないし」
「まぁ、そうだな」
私たちも丸く収まったのだから、これ以上誰かを責めるのはやめたほうが心も楽だ。
「あ、でも、たまに香水の匂いがスーツについてるんだけど?」
「香水?」
「そう、たまーにだけどね」
責めるのをやめようとしたものの、疑惑を放置しておけない。朔は首を捻った後、「あっ」と目を見開いた。
「多分、クライアントの人かもな。香水の強い人がいるから。母さんくらいの歳で女社長で気さくなのはいいんだけど、香りはちょっと慣れないな」
朔は慌てる様子もないし、嘘をついていなさそうだ。安心して胸を撫で下ろした。
里見さんでもなければ、別にいい感じの人がいるわけでもなかった……。
あの苦悩の日々は何だったのだろうと虚しくなる。でも、全部早とちりした私が悪いのだから、仕方がない。
「柚瑠」
「なに?」
「お前のことを愛しているから、ずっと一緒にいたい」
仲良く指輪を嵌めた指と指を絡ませる。朔が私を真っ直ぐ見つめてくるから、一度口を閉じ、思案してからまた開いた。
「私でいいの?私、料理とか家事下手だよ」
「そんなもんさせるために、結婚するんじゃねぇよ」
「毎食カレーかシチューになるかもよ」
「全然いける。っていうか、俺も料理するし、面倒な時とかは外食なり出前にしたらいいだろ。完璧な妻の偶像に取り憑かれなくていい」
朔の秀麗な顔が呆れを含む。でも、すぐに真剣な表情に戻る。
「俺は普通の日でも共に生きていって、くだらないことで笑えて、お前に何かあったら一番にかけつけられる権利がほしい」
そんなことを言い出すから、吹き出してしまった。せっかく決め台詞を笑われて朔は羞恥で頬を染める。
「な、なんだよ」
「権利って弁護士っぽい」
「そうか?」
指摘を受けて後頭部をがしがしと掻く。彼が照れた時の癖だ。昔と変わっていない。
愛おしさに胸がきゅっと鳴る。
「私も、朔と一緒に笑顔で満ちた家庭を築きたい。そして、あなたが大変な時、支えられる力と一番傍にいられる権利がほしい」
何があっても一番に傍で支えて、この人と生きていきたい。
「愛してる」
ふたりの声が重なった。目を丸くしてお互いを見つめるのも、その後すぐ破顔したのも同じタイミング。そして、唇を寄せ合うのも。
重ね合わさったところから朔の温もりが伝わってきて、心臓の音が大きくなる。ドキドキするけど、心地よくて安心する。
気持ちよさにうっとりと目を閉じていると、唇の温かさが消える。瞼を開けたら、朔の顔が離れていくのがゆっくりと見えた。
名残惜しくて自然と後を追いかけて自分からキスした。朔の驚いて瞬きする睫毛がこそばゆい。
でも、それすらも愛おしくて、合わさった口元が緩む。こんなに積極的な自分を初めて知る。それも悪くない。高揚感に任せて朔を抱き締めると、朔の腕で引き剥がされた。
嫌悪や困惑というよりは、すごく慌てている。
「ゆ、柚瑠」
「何?」
「これ以上はやばい……その……怪我もあるし」
ごにょごにょと朔にはめずらしく歯切れが悪い。彼なりの優しい葛藤が見られて、私は微笑んだ。
「大丈夫」
「え?」
「まだリハビリとかあるけど、激しくしなければ」
「あ、そ、そうか。うん。頑張る」
コクコクと頷く。
小さな男の子みたいで可愛い。朔を見てクスクスと笑っていたら、身体が宙に浮いた。朔がソファーから私を抱き上げたのだ。そのまま、迷いなく寝室へ。私が怪我をしてから朔の広いベッドを使っている。クローゼットに敷いた布団や客間のシングルベッドでは狭いだろうと朔が言い、私が大丈夫というのを全てスルーして、自分は隣の床に布団を敷いて寝る。
だから、もうそこはふたりの寝室なのだけど、ドアが開いた先に見えるベッドに鼓動がさらに速さを増す。見慣れた光景でも、やはり今日は特別。
ゆっくり下ろされたシーツの冷たさに肌が粟立つ。でも、すぐに朔の熱い身体に包み込まれて消える。
「柚瑠」
今日、雨は降っていない。でも、匂いも声も肌も、早鐘を鳴らす彼の心臓の音が自分のものと混ざり合う。
「あの時と一緒だね」
愛おしくて、彼の耳元に寄って囁く。ぐっと息を呑む音がした。
硬直してしまった朔の顔を窺おうとしたら、嵐みたいなキスが降ってくる。荒々しいけど、深く愛してくれるキス。瞬く間に私はそれに溺れた。
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