エリート弁護士は契約妻と愛を交わすまで諦めない
目玉焼きとかなら焼けるけど、家庭料理的なものはレシピを検索して四苦八苦しながら作る。それなのに、味がとびきりおいしいというわけではない。具材を切って、市販のルーを入れて作ったカレーとシチューが一番おいしくて無難。
だからといって毎回市販の固形ルーに頼り、電気鍋の技術力に任せっきりで、揚げ物料理はスーパーで買ってくるというサイクルでいいのかと自分でも思う。
「京子さんも料理得意ではないからな。教わる感じではないか」
「そうなんですよね。スキルを求められない分、楽ですけど」
「嫁姑仲は良さそうだもんな。京子さんは家ではどう?」
「えっと、いたって普通というか。会社のままというか」
「そっかぁ」
溜息混じりに言って、頬杖をついて項垂れる。なんだろう、結局何が言いたいのかわからない。
「えっと、ところで相談って?」
「俺ね、京子さんと付き合ってるんだ」
「はぁ、付き合って……え?」
思わず目の前の人をガン見してしまう。
「……神崎さん何歳でしたっけ?」
「四十」
ということは、十歳差。京子さんはバイタリティがあるし見た目ももっと若いから並んでもそんなに差があるようには見えない。ただ、朔の母親の印象が強いから、どうにも反応に困る。
「い、いつからお付き合いを?」
「一年前からかなぁ。京子さんが独立するっていうので、俺もついてきて。なんだかんだで、尊敬していたのが一緒に会社作っていくのにプライベートでもパートナーとして色濃くなっていったというか」
「な、なるほど」
「会社自体は一年前から日本で始動してるけど、京子さんは海外との行き来が多くてさ。でも、日本にいる時は一緒に住んでたんだ。で、今回の出張から帰ってきて、俺と会うなり息子が結婚したのよって言い出して。すごく興奮して喜んでてさ。その流れで『じゃあ俺たちもする?』って言ったんだよね。そうしたら、すっごい真顔になって出ていかれた」
「お待たせしましたー!かけ蕎麦おふたつですー!」
あまりの展開に言葉を失った瞬間、活気ある声とともにかけ蕎麦が運ばれてくる。
な、なんというタイミング。
「冷めるし、とりあえず食べようか」
「は、はい」
促されて一緒に食べ始める。しばらく、蕎麦を啜る音と店の喧騒しか聞こえてこない。おいしい蕎麦と出汁のはずが気まずくて味がよくわからない。
「結婚しようって言ったら、喜んでもらえると思ったんだけどなぁ」
食べ終えてぽつりと零れた神崎さんの気持ち。確かに、息子の結婚を機に自分たちもという提案を黙殺されるのはきつい。
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