エリート弁護士は契約妻と愛を交わすまで諦めない
「情けない」
詰めていた息を吐き出すと、一緒に本心が零れ落ちる。
「別にそうでもないだろ」
「……朔は何も知らないでしょ」
十年以上会ってないのに、わかるわけがない。同情されるのが、腹立たしい。何よりそうなる自分自身に憎悪に似た感情が湧いてくる。
「今日だって、来たくなかった。誰とも会いたくない」
朔とも会いたくなかった。
こういう形で。
「みんな私のこと憐れんでる」
「なんでそう思う?」
「だって、恋人と友達に裏切られて、仕事のミスも押しつけられて反論もできなくて辞めて!仕事も毎日へとへとになるまで働いて縋りついてたけど、全然好きなことでもやりがいがあることでもなくて!今の私には何もない!親に迷惑かけて、周りに陰であれこれ言われて!家にいてもただのお荷物だし、私なんていないほうがマシ!」
一気に吐き出したら、涙まで出てくる。なんだこれ。自分でも感情がコントロールできない。
「まぁ、俺は又聞きしただけで、お前のこと全部わかってるわけでもないしな」
淡々と冷静な声音にカッカしていた頭が瞬時に冷えていく。そう、ただ朔は母親から聞いて、きっと今日私のことをちゃんとフォローするよう頼まれただけ。ただの八つ当たりもいいところだ。朔は何も悪くない。
「でも、俺はお前変わってないなとは思ったな」
「私が?」
「そう。中学の時から変わってない」
「どうせお子様のままよ」
それがまた子供染みた言い方になって情けない。
久しぶりに会った幼馴染に、しかも心配してくれている人に対して当たり散らして拗ねるなんて最低だ。
きっと呆れられた。そう思っていたら、ふっと朔が笑った気配がした。
「自分がつらいのに約束守って結婚式来て、つらいのに笑って、断ればいいのに無理してまで他人のために頑張るところ」
朔は運転中だから前を向いたまま。でも、ルームミラーで私を一瞥したのと目が合ってドキリとする。
「そういうところが俺は変わってないって思った」
朔は相変わらずの淡白な、どちらかというと不愛想に捉われる口調のまま。
でも、すごく胸に沁みた。私の知る朔は、心にもないことを言って、その場しのぎで人を慰めるような器用な人間ではない。
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