客観的恋愛曖昧論〜旅先の出会いは、運命の出会いでした〜
コーヒーを飲みながら、木之下は匠をじっと見つめる。
「なぁ、二人ってどういう出会いだったの? 昔から知り合いだったみたいなのは聞いたんだけど、詳しくは知らないからさ」
「……なんで?」
「いや、単なる興味」
その言葉に匠は不愉快そうな顔をしたが、一息つくと口を開く。
「六年前にさ、秩父の観音巡礼に行った時に二葉に声をかけられたんだ。俺も二葉もちょうどショックな出来事があった後で、なんとなく一緒に巡り始めてさ、俺の方が離れ難くなっちゃって、三日間一緒に過ごした」
「ふーん……って三日? そんなに長く行く予定だったんだ?」
「俺はね。でも二葉は日帰りの予定だったのを、俺が引き止めた」
木之下のコーヒーを口につけたまま微動だにしない。
「……別の部屋だよな?」
「俺の宿泊してたホテルに連れ込んだ」
「うわっ、鬼畜! まだ二十歳そこそこの子に何してんだよ。まぁついて行った雲井さんも問題ありだけど」
「……だよな。今なら、何してんだって思う。でもあの時はそんな考えにならなかったんだ。俺も私生活で辛い事があって、どこか抜けてたのかもしれない。でも二葉と過ごしたことで身も心も癒されて、このままずっと二葉といたいって思った……」
今もあの別れの瞬間を思い出すと辛くなる。キスの後、二葉は車を飛び出した。俺の想いも手もすり抜けて……。