客観的恋愛曖昧論〜旅先の出会いは、運命の出会いでした〜
始まりの場所
 匠は二葉のアパートまで車で迎えに行く。片付いていないからと中には入れてもらえないが、淡いイエローの外観が可愛らしいアパートだった。二葉の部屋があるのは二階だが、既に階段の下で、いつにも増してウキウキしている様子で待っていた。

 泊まりの荷物を後部座席に乗せると、嬉しそうに顔を綻ばせる。

「どうしよう。今から楽しみで仕方ないの!」
「俺も。今回はスタートから二葉と一緒だからね。写経とか納経帳も大丈夫?」
「もちろん! あっ、あとこれも」

 二葉はカバンの中からあの日の輪袈裟を取り出す。

「俺も持ってきたよ。そのまま使う? 交換する?」
「……せっかくだから交換したいな。お互いのをずっと持っていたんだし、結願したらまた匠さんのをもらっていい?」

 覗き込むように尋ねる二葉に、匠はそっとキスをした。

「……朝からそういう可愛い表情をしないでくれる? 我慢できなくなるから」
「こ、これから巡礼なのに、煩悩だらけじゃない……」
「……大丈夫。着くまでに消し去るから」

 匠の返事を聞くなり、二葉は持っていたビニール袋を開ける。

「あのね、飲み物とかおやつとかいっぱい買ってきたの。何か欲しいものがあったら言ってね!」

 袋いっぱいに、飲み物や様々な種類のお菓子が入っていた。

「じゃあコーヒーある?」
「もちろん」

 まるで遠足みたいだな……匠は思わず吹き出した。
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