「私の為に、死んでくれませんか?」 ~君が私にキスしない理由~
永遠に続きそうな激しい音は、突然予告もなく止まった。それでも私はしばらく体を動かすことができず、目をギュッと閉じていた。

どれくらい時間が流れただろうか。バクバクしていた心臓が少し落ち着いた頃、私はゆっくり立ち上がり、音がしていた方向へ進んだ。一歩踏み出す度に脚がプルプル震えるけど、いつまでもじっとしているわけにはいかなかったから。

そして暗闇の中、何かぴちゃぴちゃする音が耳に届いた。それと同時に足先にも、今までと違う感覚が伝わってくる。それらの正体が何なのか、私はすぐ分かってしまった。


ー逃げたい。

頭の中に真っ先に浮かんだのは、この言葉だった。

ー逃げたい。早くこの場から逃げたい。このまま何も見ずに、何も聞かずに、今すぐこの場から全力で離れたい。

風に乗って広がる血の匂いに、どんどん気が遠くなる。私は今にも消えてしまいそうな己の意識をなんとか維持するだけで精一杯だった。

しかし、ここで逃げたら、私はもう「死神」としていられなくなる。そうなったら、私の記憶を取り戻すこともできない。私もこんな形で誰かに殺されたかもしれないのに、何も分からないまま、永遠に自分自身が何者なのか知らないままー。

私は深呼吸して、持っていたフラッシュライトをゆっくり持ち上げた。まだ震える手の動きに合わせ、光も一緒にブレる。そしてすぐ、空中に赤く染まったスニーカーが見えた。

元の色は白だっただろうか、それとも別の色だっただろうか。出処のはっきりしない赤い液体はスニーカーのつま先に集まり、一滴、そして又一滴、下へ落ちていく。私はフラッシュをそれより上に上げることができず、ただその姿を眺めていた。
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