「私の為に、死んでくれませんか?」 ~君が私にキスしない理由~
「向こうではもう大騒ぎになってる。あの男たち、疑われてはいるけど、アリバイが完璧過ぎて拘束とかはされていないらしい」
<東京都八王子市の高尾山で少年が遺体で発見された事件で、警察は被害者が17歳の男子高校生、高岡(たかおか)拓也(たくや)さんであることを確認しました。周りの証言によりますと、被害者は17日の夜最後に友人と電話した後音信不通になり、その後母親が警察に通報したとのことです。警察は、被害者の知人から事情を聴くなどして調べを進めています。>
どの記事を見ても、やはり男たちの話は載っていない。真っ先に疑われる立場だと思うが、どうして…複雑な気分で記事を読んでいる私に、先輩が又別の情報をくれた。
「あの少年の霊は結局社長が直接案内係になったらしい」
「社長って、元々そういう営業の仕事も直接やってたんですか?」
「どうだろ、いつも裏で勝手にコソコソやってるイメージだからな」
あの夜、私達を帰らせて自分が直接後片付けをしたのだろうか。私に冷たく当たっているけど、社員の尻拭いを自らやるのを見ると、元は悪くない人…なのか?深刻に考える私を見て、野島先輩は自分が持ってきた袋から料理を一つ一つ出してきた。
「お前、甘いものばっか食わないでちゃんと食事するんだぞ。ここにお粥とうどん入れてきたから」
「あ…はい。いつもありがとうございます。先輩が持ってきてくれたものもちゃんと食べますので、ゼリーのことは気にしないでください」
「べ、別に気にしてねぇよ!俺、そろそろ帰るからな。じゃあな!」
照れ隠しをするかのように、先輩はわざと玄関ドアをガン!と閉じて出て行った。気にしてないなんて、絶対嘘じゃん。私は藤田さんがくれた袋の中を探り、赤い色のゼリーを一つ取り出した。早速スプーンで一口食べると、舌を刺激するイチゴの甘さに口角が上がる。
この数日間、お粥以外ほぼ食べられなかった私はそのままゼリーを三つペロッと平らげた。ご機嫌になった私はベッドの上にゴロンと寝転び、天井を見上げた。そう、まるでこの世界で初めて目を開けた、あの日みたいに。
ー「我々の仕事はこういうことだ。死んでる人をピクニックでもいく気持ちで案内すればいいだけの話ではない。だから、辞めるなら今のうちだ」
あの人の背中で聞いた言葉を、もう一回思い出す。この数日間、熱を言い訳に避けてきたけど、数日以内に答えを出さなきゃいけない。
「どうしようかな…」
悩みは深まるばかりで、そうすぐに答えを出せそうもない。私は枕をギュッと抱きしめ、心の声へ耳をすませた。
今でも目の前にあの血の風景が鮮明に思い浮かぶ。恐怖と焦りで動くことすらできなかった自分が、これからはちゃんとやっていけるのだろうか。そんなことをすべて我慢してまで、自分の「過去」は知る価値のあるものだろうか。
「…もう一個だけ、食べてから考えよう」
大丈夫、まだ数日悩む時間はある。私はそう自分に聞かせ、また新しいゼリーの蓋を開けた。