「私の為に、死んでくれませんか?」 ~君が私にキスしない理由~
人混みの乗客ターミナル。様々な年齢の人が私の横を通っていく。人々の流れに逆行しながら、私はある「人」を必死に探した。まだ本日のクルーズの出航時間まで少しあるはず。なら、あの人は今頃、きっとこのターミナルの中を…

(…いた!!)

ここから少し離れているベンチに、制服を着て座っている少年が見えた。手にはチケットをギュッと握っていて、少し不安そうな顔で通りすがりの人たちを見ている。しばらくして、少年は何かを決心したかのように席から立ち上がり、一方通行の人たちの群れに混ざり込んだ。私は思いっきり走り、その背中に向かって叫んだ。


「あのー!!」


私の声を聞いた数人が振り向く。その中には少年もいた。間違いない、タブレットで何度も見た、あの顔だ。私は少年のすぐ前で足を止め、息を切らして質問した。


「高岡拓也くん、だよね?」


少年は驚いた顔で振り向いた。その顔を見るとあの夜、なにもできず、ただ死ぬ場面を見守ることしかできなかった罪悪感がまたゆっくりと目を覚ます。辛い表情を隠すため俯く私の目に、少年のスニーカーが飛び込んできた。

ーそうか、あのスニーカー、元の色は白だったんだね。


「…どなたですか?」


そう聞かれて、私はまたぱっと顔を上げた。少年は私の顔を見ていないので、当然私のことも知らない。そう考えると、私自身をどう紹介すればいいのか悩ましい。自分は死神で、元々君をこの世界まで案内する役割だったけど、途中、色々あって…。いや、こんなことを言ったって一体何の意味があるんだ?せっかくここまで来たのに、話をどう切り出せばいいのか分からない。


「お姉さん、もしかして…あのとき、俺を迎えに来てくれた人の知り合い?」

「え?」

「お姉さんと似たような感じの真っ黒のスーツを着た人です。背が高くて、あの、同じバッジを付けてました」


そう言って、少年が私のジャケットの襟にあるバッジを指す。少年の話で私はその「黒いスーツの背の高い人」が誰なのかすぐ分かった。あの夜、そこにいそうな人で、私と同じくF.F.Aのバッジを身につけている人物はもう一人しか考えられない。私が肯定の意味でうなずくと、少年が少し明るい表情になった。


「あの、もしその人に会える機会があったら、伝えたい言葉がありました」

「伝えたい…言葉?」

「そうです。『最後にお願いを聞いてくれて、ありがとうございました』と。そう伝えてください」


少年の言葉が私の心臓を揺るがす。震える声を必死で抑え、私は質問した。


「…あの夜、どんなことがあったのか、教えてくれる?」

「…」

「ごめん、嫌な記憶を思い出させて。でも…どうしても知りたくて。君がどうやって、お母さんに手紙を渡したのかが、どうしても気になるの」


少年は少し何かを考えるように、しばらく目を閉じて黙っていた。もどかしい気持ちでその姿を見守ること数分。やがて少年が目を開け、話を切り出した。


「…あの夜、目を開けてみたら目の前にあの黒いスーツの人がいました。何がなんだかよく分からなかったけど、その人が『お前はもう死んだ』と言って。それから俺、どうすればいいのかよく分からなくなって…」




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