「私の為に、死んでくれませんか?」 ~君が私にキスしない理由~
ー「おい、起きろ」

気絶でもしてしまったのか?耳に響く声に、少年はぱっと目を開けた。体を締め付けていた太いロープは消え、痛みも感じない。少年は地面から体を起こし、信じられない顔で体を確認した。

周りは暗くて、風景を見る限りまだ山の中にいるようだった。ついさっきまであの悪人たちに殺されかけたのに、今は…どうなっているんだ?少年は自分を起こした人を見上げた。黒いスーツに金色のバッジ、冷たい印象の男は少年にもう一回言った。


「目が覚めたらさっさと立て」


言われたとおり、一旦立ち上がった。男は軽く少年を頭から足までざっと確認して、ポケットからスマホを取り出した。数回画面をタッチした彼が、ドライな声で少年の名前を呼んだ。


「高岡拓也、17歳。あってるか?」

「あ、はい…」

「確認はできた。ついて来い」

「あ、あの…俺を助けてくれたんですか?」


少年の質問に、男は首を横に振った。助けてくれたのでなければ、じゃあどうして自分がこうして無事でいられるんだ?少年は唖然とした顔で男を見た。男は何も言わないまま、少年が自分自身で何かの答えを探すのを待つかのように見えた。そう思った少年は男の服装を見ながら、もう一回考えた。やがて、ある結論にたどり着いた少年が恐る恐る確認した。


「じゃあ…俺は、死んだのですか?」

「そうだ」


あまりにも簡潔な返事に、すぐ実感がわかない。ぼーっとした少年の顔が徐々に絶望の色で染まっていく。結局少年は両手で顔を包み、涙を流してしまった。まさか、このような形で自分の人生が終わるとは、想像もしなかった。

ポロポロ流れる涙を、男はじっと見ているだけだった。何か慰めの一言もなく、だからと言って「現実を受け入れろ」とかの冷たい言葉を言うのでもなく、ただ待つだけ。

もう飽きるほど死人を相手してきたから、自分のような凡人の死にはこれっぽっちのもどかしさも感じないのだろうか。少年は必死で制服の袖で涙を拭いた。

「これから、俺はどうなるんですか?ここはもう死後の世界ですか?」

「まだ死後の世界ではない。私の役目はお前をあの世へ無事案内することだ。さっさと付いて来い。私から逃げられると思うな」

「あ、あのー!!お願いがあります!!」


まだ自分が死んだことを完全に受け入れたわけではない。ただ、このまま「あの世」へのこのこと付いて行きたくない。どうしても、最後にやりたいことがあった。少年は頭を下げ、必死の声でお願いした。

「お願いします、一回だけ、一回だけお母さんに会わせてください。今まで育ててくれた感謝の思いを伝えたいです。一時間、いや30分だけでいいです。お願いします、お母さんに会わせてください…最後の挨拶がしたいです…!!」


少年の声が冷たい空気中に響く。背を向けた男は何も言わず、その場でじっと立っていた。どんな答えが戻ってくるのかそわそわする中、男がゆっくり振り向く。少年を見つめる瞳は、氷を思い出させるほど冷たかった。


「…最後の挨拶?」
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