俺様石油王に懐かれて秘密の出産したら執着されてまるごと溺愛されちゃいました
 「体調の方はどうですか? 挨拶も出来ずに、急に配置換えになってしまって、完治するまで看護出来ずに、ずっと気になっていたんです」

 もちろん、私、個人としても心配だったが、自分の感情を押し込めて無理矢理、患者と看護師としての関係に戻してみる。


「この通り、一花のおかげで、すっかり元通りだ」

 満面の笑みを浮かべ微笑むと、ワインを片手にかかげ、乾杯をする。

「イラーハの愛に!」

(…… 歯の浮く様な、セリフが何でこんなに、似合うの)


 ドキドキし過ぎて、喉の渇きを覚えていた私は、コクコクッと、それを飲み干した。

 その様子に、アミールは少し驚いて目を丸くする。

「一花は結構イケる口なんだな。こうやって、一つずつお前の新しい一面を、発見出来るのは嬉しいな」

 それは私も同じだ。綺麗な所作で食事をし、お酒も既に三杯目。かなりペースが早い。顔に出ないので、かなりの酒豪と見た。


 お酒が入ったせいか、少し余裕が出てきた私は、周りを見回した。

 目の前には、ルームサービスとはいえアラブの代表的な料理がならんで並んでいる。

 デーツはナツメヤシの実で、イスラム教の聖典コーランに「神の与えた食物」として登場するため、ムスリムの間では外せない果実。

 ひよこ豆のサラダはヘルシーで女性に人気。

「あ、これ…… 」

 この国に来て病みつきになったのが、フムス。
ひよこ豆をすり下ろしつつ、エクストラバージンオイルを加え、クリーミーになっている、ホブズという空洞のある薄いパン。
これがワインにとても合って、おつまみに最高だ。

「んーっ、美味しい!」

 一口食べては、ワインを飲む、そしてまた、フムスを一口囓る。

 無限ループだ。

「じ、自分で食べれます」

はわわーっ、と真っ赤になって慌てる私に、アミールはニヤリと笑うと、

「遠慮するな、看病してくれた時のお返しだ」

ホラッ!と、有無を言わさず口を開けさせる。

(うううっっ、何この罰ゲーム…… )

 耳まで火照って酷い顔の私に満足そうに微笑むアミール。


 ワインとアミールの行動に酔い、上せた私はクラクラと軽い眩暈を覚えた。

(…… 刺激が強すぎる…… )
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