俺様石油王に懐かれて秘密の出産したら執着されてまるごと溺愛されちゃいました
「…… どうしたんだろう」
アミールの宿泊先のホテルのロビーで、会う約束をしていたが、彼はまだ姿を現さない。
携帯を取り出し、時間を確認すると、待ち合わせから30分程経過していた。
「…… やっぱり約束なんか、しなきゃよかったな…… 」
時間が経つにつれ、不安な気持ちが込み上げてくる。
「…… 連絡先も知らないなんて、他人以下じゃん」
携帯を見つめ、ハァーッと溜息を吐く。
「あと五分、五分待って来なかったら帰ろう」
一人呟いてみるが、心のどこかで、彼を待ち望む自分がいる。
結局、あと五分、あと五分と言いながら、一時間以上経過してもその場を離れる事が出来ずにいた。
「一花‼︎ 」
息を切らし、額に汗を薄らと滲ませ早足で向かって来るアミール。
「…… 自分から会いたいと、約束しておきながら遅れてすまない。 言い訳になるが、三年前からのウィルスの影響で、仕事の方にも色々と支障が出て商談が長引いた」
詳しい事はわからないが、ウィルス蔓延が緩和されたとは言え、連日のニュースで石油関係は、原油価格の変動や、買い占め、売り渋り、様々な要因が重なって大変だと報道されている。 今回、アミールが日本に訪れたのもその関係だ。
「いや……、それは関係ないな。 ちゃんと連絡先を伝えてなかった俺のミスだ。 遅れてすまない 」
(そっか…… 、 仕事だったんだ…… )
ちょっとホッとして気付かれないように小さく息を吐く。
「部屋…… は、まずいか。 夕飯は食べたか? そこのラウンジで何かつまみながらで良いか?」
本当は直ぐにでも連れ込みたいがな…… と、ブツブツ呟くアミールの独り言は、これから話す事で頭がいっぱいの私には入って来なかった。
「アルコール、大丈夫だろ? 」
アミールが赤ワインを二杯注文する。
「いえ、今日はちょっと…… 」
大事な話をするのにそれはダメでしょう、と首を振る。
「緊張を解くために少しだけだ。 お互い、少しリラックスした方が良い」
確かに、さっきから緊張でガチガチに握り締めた手が冷たくなっていた。
コクコクッと数口、ワインを口にし、ホウーッと落ち着く為に息をゆっくり吐き出した。
私が落ち着くまで、黙って待っていてくれたアミールは、テーブルに置かれた私の左手に手を重ねた。
「消えてしまったな…… 」
眉毛を下げ、切なそうに私の左の薬指を擦る。
あの夜、自分のものだと独占欲を露わに、彼は薬指に噛み跡を付けた。
「三年…… も経てば当然か…… 」
ハッと、小さく自笑する様に鼻で笑うと、彼は青いサファイアを彷彿させる綺麗な目で、射抜く様に真っ直ぐにわたしを見つめた。