黒子ちゃんは今日も八重樫君に溺愛されて困ってます〜御曹司バージョン〜
エンドロールには感動を呼び起こさせる映像が流れ、私の涙は止まらない。

映像から文字だけに変わると、八重樫君は覗き込むように私を見て、目が合った瞬間キスをしてきた。

泣く子も黙るキスとはこの事だ。

膝に置かれた彼の手は私の頭に回され、撫でられている。

何が起きた?
なんだったんだ今の。
夢か? 幻か?

思いっきり頬をつねるもちゃんと痛点が働いているのでこれは現実らしい。

隣を見ると可愛い年下の彼女を愛でるかのように八重樫君が微笑んでいた。

何ですか? 何なんですか一体!

私は今パラレルワールドにでも転送されましたか?

混乱の最中でシアター内の明かりがつくと八重樫君は私の耳元で「メイク崩れてるからトイレで直してきたら」と何事もなかったかのように話しかけ、そっと私の頭から手を離した。

動揺を隠しきれない私はロボットのような歩行でトイレへと向かった。

「はぁ……何? 何があったの。あったよね、さっき重大な事起きたよね?」

トイレの鏡の前で呟く私を周りの女子はイタイものを見るかのように横目で捉えながら通り過ぎていく。

はっ、心の声が漏れていた。

鏡に目を向けると私の顔にはマスカラとアイライナーが物の見事に流れ、目の周りがグロテスクに黒くなっている。

あの微笑みはこれを見て笑っていたのか。何を愛でているなんて勘違いしているんだ私は。

それから素早くメイクを直し、何もなかったかのようにトイレを出た。

私も大人だ。キスされて動揺している場合じゃない。

両頬を叩き、気合を入れた。

辺りを見渡し八重樫君を見つけると見られていたのか口に手を当てて密かに笑われていた。

私は彼が笑っていたのを見なかったことにし、彼のもとに駆け寄って「お待たせしました」と大人の落ち着いたトーンで声をかけた。

「大丈夫。じゃあ、カフェ行こっか」

決まりごとのように言う八重樫君は私の手を取り人込みの中を突き進んでいく。

同じ映画が好きと言った八重樫君と今観た映画のことを語りたいと思ってしまった私は渋々と言った表情を見せながら、その手を振り払う事もなくこの前と同じカフェに移動し、映画談義を行った。

八重樫君との会話は弾む。映画がより一層いい物に感じられる。

なんて素敵な時間なのだろうか。

楽しい時間を過ごしているが、映画館で怒ったことは何も無かったことにされている。

まぁ、それでいいのだ。こんな年下、じゃれてきた子犬と思えば気にならない。

「それにしても、あのキスシーン、めちゃくちゃ良かったな」

急に心臓が早くなったが、ここは大人の余裕を見せようと、私はほうじ茶ラテを飲みながら気にしていない素振りで答えた。

「キス? あぁ、中盤の?」

「そうそう、2人の初めてのキス、ぎこちなくて良かったよな」

からかっていますよね、八重樫君。
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