黒子ちゃんは今日も八重樫君に溺愛されて困ってます〜御曹司バージョン〜
私達はしばらく無言で歩き時間を過ごした後、車に乗り込み帰ることにした。

車に乗っても八重樫君は手を離してはくれなかった。

従兄弟の子供、従兄弟の子供。

今度は子供と手を繋いでいるという妄想を必死にしていた。
無言の八重樫君は車の窓から外の景色を眺めている。
まるで映画のワンシーンを観ているかのような美しさ。

八重樫君は何を考えながら、何を感じながら外の景色を眺めているのだろうか。

過去の忘れられない人でも思い出してしまったのだろうか。

車で家まで送ってくれた八重樫君にお礼を言って部屋に戻る。
いつもなら読む漫画も読む気になれず、日曜日になっても漫画を開くことはなかった。

一日中漫画で味わうものとはちょっと違うキュッとする胸の痛みで一杯だった。

何とか自分を奮い立たせて浴槽にラベンダーの香りの入浴剤を入れ、肩まで浸かり心と身体を癒していった。


いつもの平日が戻ってきた。

八重樫君はあれから業務以外の話はしてこないし、何だか冷たい感じがする。
私は何か八重樫君を怒らせるような事をしてしまったのだろうか。
キスを断ったことが男心を傷つけたのだろうか。
でもそれなら何故八重樫君は恋人繋ぎをしてずっと手を放してくれなかったのだろうか。

金曜日、お昼から帰ってきていつものように引き出しを開けると八重樫君からの貢物が入っていた。

『明日いつもの時間、いつもの場所で』

付箋をそっと剥がしてポケットにしまう。

『お菓子ありがとう。明日行きます』と書いた付箋を貼った資料を八重樫君に手渡した。

私は未だに八重樫君の連絡先を知らない。

つまりはそういう事だ。私達の関係は会社という繋がりが無ければすぐに消えてしまうのだ。

土曜は、郁美とお茶の予定を入れていた。

郁美が子供を連れてくるため、ウィッグ無しで髪をまとめてバレッタで留めて動きやすいパンツスタイルで決めた。

郁美に指定されたカフェにはどのテーブルにも小さい子供がいて子供が喜ぶような仕掛けが各テーブルに施されていた。

一人でソワソワしながら待っていると郁美が郁美Jrを連れてやってきた。

前に会った時はつかまり立ちで感動していたのに、もう一人で歩けるようになっている。
大人の1~2年なんて何も変わらないが、子供の成長は目を見張るものがある。

写真ではたまに見せてもらっていたが、実際に会えて嬉しくなった私は意気揚々と声をかけたが、郁美Jrは明らかに私を警戒している。郁美の後ろに陣取り私とは目を合わさないことを決めたようだ。

物で釣ろうとしたが用意していた絵本を差し出すと郁美の腕を巧みに操作し、郁美に受け取らせ、郁美の手からささっと盗むように取り上げて一人でめくり始めた。

以前はあんなに私の膝の上で遊んでいたのに今は近づいてさえくれない。
こんな小さな男の子でさえも近寄ってきてくれない現実に何故だか落ち込む。
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