黒子ちゃんは今日も八重樫君に溺愛されて困ってます〜御曹司バージョン〜
「ごめんね。なんか最近、この子女性に懐かなくなったんだよね。それにイヤイヤ期に突入したみたいで本当に大変なのよ」

「そうなんだね」

私だけじゃなくて少し安心した。

それから郁美は子育ての大変さを篤とくと教えてくれた。
毎日が戦争らしい。片付けた傍から散らかしていく天使に困り果てているようだ。

私の知らない世界は、それはそれで大変そうで私は郁美の育児の大変さ、ママ友の大変さについて聞くことに専念した。

郁美が仕事に復帰してからはプライベートで会う事もめっきり減り、部署も帰りの時間も違うのでこうやって話を聞いてあげられることは少なくなっていた。

八重樫君の事は結局何も言えずに2時間ほど経ち、毒が抜けたようにすっきりした郁美を旦那が迎えに来て家族で仲良く帰って行った。

なんだか羨ましい。
でも、私にはそんな日常よりも一人で穏やかな時間を過ごす方が似合っている。

八重樫君と映画を観る時間になるまでまだ十分時間があったので、私は文房具店に立ち寄った。

いつも何かとくれる八重樫君に甘えてばかりでお返しができていない。
食べ物を渡すにしても荷物になるし、映画のチケットはなんだかこれからも一緒に行こうねと言っているように思われても困るし、ドリンク券、商品券、雑貨などを考えたがどれもなんだかしっくりこなかった。

結局私は無難に使っても使わなくても気にもならないようなもの、更には忘れても他人にあげてもよさそうなものにすることにした。

レターセットやメモ帳のゾーンを通り抜け、カラフルな棒が沢山置いてあるゾーンに足を踏み入れた。
ネットで調べておいた、書き心地の良いペンは大量に置かれているゾーンから少し離れた場所に置かれていた。
サンプルが用意されていたので書き心地を試してみる。
その周りにあったサンプルを幾つか試し、私が一番しっくりきたものを選んだ。

こんな値段がするペンとはきっと買った本人やペン好きじゃないと分からないだろうという見た目なので丁度いい。

それに社会人ならペンは何本あっても困らない。

包装してもらい、一緒に買った紙袋に入れて、夕食を取るためにファミレスに入った。

料理が届くまでの時間を利用し、一緒に買った小さめのメッセージカードにお礼の言葉を書き入れた。

『いつもありがとう。映画も鎌倉も八重樫君と行けて楽しかったです。これは御礼の品です。使ってくれると嬉しいです。』

もし、八重樫君が怒っているなら外で会えるのはこれが最後なのかもしれない。

重く受け止められないよう、最後でも変に思われないような言葉を選んだ。
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