黒子ちゃんは今日も八重樫君に溺愛されて困ってます〜御曹司バージョン〜
「お昼に友達と会ってたから」

「男はいないよね?」

「まぁ、男と言えば男もいたけど」

「なにそれ」

「女友達とその息子。膝の上に乗せて絵本を読もうと思ってパンツ履いてきたのに、近寄っても来てくれなかった」

「……あはっははは。良かった、焦ったわぁ」

八重樫君は涙を浮かべながら笑っている。
そんなに30を過ぎた女が子供に懐かれもしないことが滑稽なのだろうか。

「もう分かったから、そんなに面白がらないで。何か辛くなってきた」

「え? ごめん、俺そんなつもりは」

「いいよ。それよりそろそろ帰るね。遅くなっちゃったから」

八重樫君と一緒にいるといつも時間を忘れてしまう。
終電ギリギリまで語り合いたくなるという私にとってはとても貴重な存在だがこれ以上深入りしてはいけない。

私達は急いで駅に向かった。
八重樫君は1人で漫喫に行くのは諦めたようだ。
いつもならタクシーを止めてくれるが、さすがにプチ旅行で散財したので今日はタクシーはなしのようだ。

そして、何とかギリギリで終電に飛び乗ったのだが八重樫君も乗っていた。

「家、同じ方向だったの?」

「違うよ」

ん? 違うのなら何故ここにいる。

「どこに行くの?」

「二条さんの家」

「なぜ?」

「一緒にいたいから」

またもや直球。そんなの言われたら勘違いしてしまうじゃないか。

「次で降りよっか」

「一緒にホテルってのも悪くない」

いやいや、悪いです。悪です。

「一人で降りてね」

「やだ。一緒がいい」

子犬のような目で訴えかけられた。

「みんなに言ってもいい? 二条さんと鎌倉デートした事」

可愛い顔して悪魔が脅してきたよ。

鎌倉に行かなければみんなに秘密を言うと脅し、行ったら行ったでそれを次の脅しに使ってくるとは……。

なんだか悪徳金融にでも捕まった気分だ。

私は、仕方なく、八重樫、いや、子犬を家に連れて帰った。

部屋に入るなり八重樫君は「へーこんな部屋なんだ。意外と女性らしい」と言ったが、私がどんな部屋に住んでいると思っていたのだろうか。
黒子だから黒と白のシックな要塞的な部屋でもイメージしていたのだろうか。

私の部屋は築年数は古いが、至って普通の部屋だ。

玄関入ってすぐ2つコンロのキッチンに二人掛け用の小さなダイニングテーブルがあり、キッチンと繋がったリビングにはテレビが置かれローテーブルを挟んで二人掛け用のソファーがあり、その上には可愛らしい花柄刺繍のクッションが2つ置いてある。

そしてリビングの隣にはクローゼット付きの小さな寝室があり、トイレとお風呂はキッチンの奥であり寝室の隣だ。

女性らしい部屋と言われるような可愛いソファーでもなければ、テーブルでもなく、パステルカラーの部屋でもない。

ただ整理整頓されたこじんまりした部屋なのだが、おそらくクッションや置かれた小物を見てそう思っているのだろう。

どちらにしても八重樫がここに来たことが万が一でも会社の人に知られてはならない。

「今日の事は他言無用、会社の人には絶対にバレないように」

「分かってるって」

「指一本でも私に触れたらすぐに外に出すからね」

「はいはい」

八重樫君なので犯罪には走らないだろうという信頼感はあったが、一応言うに越したことはない。
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