黒子ちゃんは今日も八重樫君に溺愛されて困ってます〜御曹司バージョン〜
頬に八重樫君の手が触れる。

「熱い気がするけどな」

そう言うと八重樫君はお仕置きのキスを始めた。

お仕置きなんて聞いてない!

でも、最近このキスを欲している自分がいる事を少なからず自覚してきている。

流されるな二条双葉。こんな上手い話あってたまるか! でも、キスだけは……ん?

「何してるの?」

「何って、双葉が好きなこと」

「何?」

「ごめんなさい」

胸に触れた八重樫君の手は、名残惜しそうに私の背中へと戻っていった。

男という生き物は油断も隙もあったもんじゃない。女なら誰かれ構わず抱けるのだ。
八重樫君も例外ではなかったようだ。
あのときの「無理」は何だったんだろうか。

飛び出しそうな心臓を押し殺し、私は何とか眠りについた。

後日、私は転居届持ち、総務部の郁美の元を訪ねた。

郁美は会議室を取ってくれて、私達は二人で向かい合って座っている。
郁美の手元には転居届があり、事のあらましを聞いた郁美の口はあんぐりと筋力を失ったかのように開いている。

「とまあ、そういう事なのでどうか内密に処理をお願い致します」

私がテーブルに両手をつき、深々とお辞儀をすると郁美は息を吹き返したように早口でまくし立ててきた。

「何それ、いつの間にそんな漫画みたいな展開になってんのよ。でもおかしいと思ったのよね、いきなり枯れ専とか言ってくるし、最近全然漫画の感想送ってこないし」

「いや、だから、それは読んでいると邪魔が入ってしまって」

「はぁ……。惚気、のろけね、のろけ。漫画のヒーローに嫉妬してキスしてくるんですって? はぁ。マジ、はぁだわ。これだからリア充は」

「いや、のろけてるつもりはなくて。それに、郁美は結婚して子供もいて私から見るとリア充はそちらかと」

「何言ってんの、子供ができたら夫なんか恋愛対象じゃないからね。子供を育てる共同体。そりゃ、子供に対する接し方でいい人だなとか思うけど、私に対しては傷つくことしか口にしないから。子供産む前はこんなに肉無かったのになとか、あんなに大きかった胸はどこにいったんだとか、○○ちゃんのお母さんは未だに女だよなとかさ、なんかもう夫の口が動く度にイライラよ。だからこの世界の住人になったんじゃない」

それから30分ほど郁美はいかに漫画の世界美しく、現実は波乱に満ちているのかを語っていた。
私は、郁美の旦那さんを家族思いで理想的な人だと思っていたが、郁美は郁美で色々考えているらしい。

「あぁ、もうこんな時間。仕事戻らなきゃ。ごめんね結局私ばかりしゃべって」
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