黒子ちゃんは今日も八重樫君に溺愛されて困ってます〜御曹司バージョン〜
「うぅん。郁美の話聞くのは楽しいからまた聞かせてね」

「ありがとう。あぁ、今度はちゃんと双葉の話も聞くからね」

郁美は笑顔でそう言いながら転居届を顔の位置まで掲げてウィンクをして戻って行った。

部署に戻ると八重樫君は通りすがりに「うまく行きましたか?」と言った。

私は軽く頷き、自分のデスクに向かった。

とりあえず、同居が部署内にバレてしまう問題はクリアした。
あとは早く八重樫君に飽きてもらわねば。

だって、早く出て行かないと私が持たない。

その後は集中して仕事をしていたが、相変わらず出先から意味不明な指示メールを送ってくる駒田君のせいで仕事が進まなかった。

今日は残業決定だ。

八重樫君に今日は遅くなるのでご飯は要らないとメールを打った。
八重樫君は毎晩豪華な夕飯を用意してくれている。
ちょっとした高級レストラン並みの美味しい料理を毎晩ワインと共に食べているせいで体重が増えてしまった。

こんな日はコンビニのサラダだけで済ませるのも悪くない。

いつも残業している人たちは合コンだとはしゃいでそそくさ帰っていたせいもあり、7時には全員帰りオフィスはもぬけの殻となっていた。

ここからが勝負。どれだけ早く終われるか、ラストスパートをかける。

9時まであと20分となった頃、ようやく仕事が終わり、片付けをしているといきなり電気が消えてドアが閉まった。

だが、誰もいない。

嘘でしょ? 警備員なら消灯する前に声をかけてくれるし、足音がするはず。

もしかしてここ出ちゃうの?

急いで片付ける。

早くしなきゃ。

そんな時だった。後ろに何か気配を感じる。

ヤバい。もう無理だ。

そう思った時、私の顔の横から手が伸びてきた。

終わった……。

私は呪われてしまうのか? それともここでお陀仏か?
お願いですから苦しまずに死なせてください。

目をつぶり、声にならない声を出してしゃがんだ私の肩に手が置かれると「驚かせちゃった?」と聞きなれた声がしてきた。

恐る恐る顔を上げると八重樫君が闇夜に浮かんでいた。

力が抜け、床に崩れ落ちた。

「ごめん、そんなに驚くと思ってなくて」と言いながら八重樫君は私に手を差し出した。

私は八重樫君の顔を見てほっとした。

そして気がつくと私は八重樫君の手を掴み、引き寄せて抱きしめていた。

「大丈夫だよ。もう驚かさないから。何も出ないから。よしよし」

八重樫君は私の頭を撫でながら甘い声で囁いていた。

嫌いだ。八重樫君なんて大嫌いだ。
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