黒子ちゃんは今日も八重樫君に溺愛されて困ってます〜御曹司バージョン〜
私は急いで立ち上がり、部長と距離を保って急いで帰る準備を始めた。
八重樫君も忘れ物を取るフリをして自席に移動した。

何とも言えない空気が3人を包み込んでいると感じていたのは私だけだろうか。

そして今、歓迎会の一次会は終わり、二次会のカラオケ店にいる。
右手に部長、左手に八重樫君と傍目からは羨ましがられそうなスリーショットだ。

何故? 何故こうなる。

そしてあんなに鬼鬼言われていた部長は酔うと優しくなり、更に私と言う黒子を迎えに行ったヒーローエピソードが加わり、ギャップ萌えに弱い女性社員が次々に部長の傍にやってくる。

私は、部長と話しをしたそうな人に向かって「席変わりますよ」と腰を浮かして話しかけたが、部長がすぐに私の肩に手を置いて座らせた。

「いや、二条君はここでしっかり食べて飲んでくれ。他に食べたいものはあるか?」

一次会には間に合ったものの、食べ物は残飯と化していたため、部長は負い目を感じ私の為に注文係をしている。

「大丈夫です。もう、お腹一杯です。お気遣いありがとうございます」

「そうか、そうか。良かった。今度はちゃんとした所でご馳走するから」

鬼部長が笑うと女性の歓声が上がる。
そして真横から鋭い視線が突き刺さる。

女性たちは八重樫君が部長のモテっぷりに嫉妬していると思ってくれているようだが、私は本当の理由が分かっているので彼の顔をちゃんと見ることができなかった。

何とか二次会が終り、一駅分だけ電車に乗り、降りて予定通り待っていた車に乗り込んだ。
八重樫君は先に別の場所でピックアップされていたので既に車の中にいた。

「八重樫君、何か怒ってますか?」

無言の八重樫君はクールでカッコ良いが、怒っているとなると話は別だ。

「八重樫君、無言でもかっこいいですね」

「ちょっと黙ってくれる?」

おっと、激おこぷんぷん丸だ。

あ、古いですか、そうですね。

いつもは繋いでくれている手も腕組みして解いてくれない。

部長に嫉妬しなくてもいいのにと思いながらも「黙って」と言われた私は従順に沈黙を貫いた。

家に帰り着くと、八重樫君は冷蔵庫から水を2本取り出してソファーに座った。

そして、1本を私の方に差し出している。

座れと言うことか。

「ありがとう」

私は水を受け取り八重樫君の隣に座った。

「ねぇ、双葉さぁ」

ようやく欲していた八重樫君の声が聞こえた。
嬉しさに笑みが溢れる。

「双葉は自分がどれだけ無防備なのかわかってる?」

無防備?

「なんでそんなに簡単に男に触られてるの?」

触れられたというのは部長が私の肩に置いた手だろうか。
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