オスの家政夫、拾いました。3. 料理のガキ編
「うるさい!本当に、どうしてあんたはいつもそんなに自分勝手で、いつも人も無げな態度で母親を無視するの?大して偉くもないくせして、はあ?料理?自分の年を考えなさい。その変な学校卒業したら、誰があんたなんかを雇ってくれると思う?牛丼屋でもあんたのような老いぼれは断るに決まってるでしょう!」

次から次へと暴言が飛んでくる。ある程度覚悟はしていたけど、いざ本番になると息もできないくらい苦しい。母の子供として産まれて、育って、その母に「応援するよ」との一言をもらうのがこれまで難しいとは。もう諦めればいいのに、どうしてもそうできない自分が悲しいとも思えてきた。彩響はテーブルの下で拳をぐっと握り、なるべく丁寧に話した。


「卒業したあと、就職がうまくいかないかもしれません。それは知っています。でも、きっと道はあると思います。私が頑張れば…」

「会社通いながら社会勉強もせずなにやってたの?現実を見なさい!30過ぎたら女としても商品価値が落ちるのに、就職なんかできるわけないでしょう?バカバカしいこと考えず、今やってる仕事に集中しなさい」

「お母さん、私はきちんと考えました。だから、そう怒ってばっかりいないで、話を聞いてください。私は決して軽い気持ちでー」


そこまで言った瞬間、なにかが頭に強くあたった。そしてすぐとろっとした液体が顔から床へぼたぼたと流れ落ちるのが見えた。顔を上げると、母が手に持っていたお皿を投げるようにテーブル上へ戻した。娘を睨むその眼差しは、獲物を狙う獣のようだった。

「うるさいうるさいうるさい!!私があなたをどれだけ苦労して育てたと思うの?他所の娘たちはきちんと仕事して、きちんと結婚して子供産んで、言われなくてもちゃんと親孝行するのに、なんなのあんたは?いつまで私を失望させるの?私の苦労が少しでも分かるなら、親孝行するふりでもしなさい!すべてあなたのためだと言ってるでしょう?どうして私を裏切るの?この血も涙もないクソ野郎!あんたは私が死んだとしても笑って「よく死んだ」とか笑うやつだよ!あんたの父親のように!」

顔にぶちかけられたソースを手でゆっくり拭いた。夜中から起きて、少しでも母に気に入ってもらいたくて頑張ってきた自分の姿や、隣で手伝ってくれた林渡くんの顔が思い浮かぶ。この気持ちは悲しさなのか、それとも虚しさなのか。この複雑な感情が津波のように胸から流れ出た後、又別の感情が少しずつ流れてきた。それは、間違いなく「怒り」だった。

「…私の気持ちはどうでも良いんですか?」

「はあ?」

「私がどんな気持ちで今の会社に通っているのか、どれだけ辛い思いをしていたのか、お母さんは考えたことはありますか?私は徹夜で倒れたときも、上司にセクハラされたときもなにもなかったように出勤して給料を貰いました。私の必死の努力で稼いだお金は喜んで貰っておいて、私の苦労は分かってくれないんですか?!」

「なによ、あんたがそんなに偉いならセクハラされた瞬間訴えればよかったじゃない。なんで黙っていたの?あんたもあの上司とやらが好きで楽しんでたんじゃないの?」

「セクハラで訴えて、クビになったらお母さんへの仕送りは誰がしますか?私の代わりにお母さんが働けるわけでもないのに!」


一体世の中のどのお母さんが、セクハラされたという娘にこんなことを言うんだろうか。今まで出会った友人の誰にも、ここまで実の娘を責める母はいなかった。なのにどうしてこの人はこうも私を傷つけることしかしないの?お腹を痛めて産んだ実の子供なのに、なんでー



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