Gentle rain
会社に戻る足元が重い。

こんな気持ち、初めてだった。


会う約束をしたのに、会えないかもしれないという心の落ち込み。

今までの女なんて皆、会えなくても大人同士なのだから、仕方無いと思っていた。

それが大人としての冷静な対応ではなく、今思えば、そこまで熱くなれる相手ではなかったとしたら?


俺は会社のドアを開けながら、人知れず首を横に振った。

また人のいないエレベーターに乗り、社長室がある一番上の階を目指す。


ふと、彼女が届けてくれた手帳を見た。

今までの手帳とは、違う物のように見える。

彼女が拾ってくれた手帳。

彼女がページをめくった手帳。

彼女が届けてくれた手帳。

俺は、彼女が触れた手帳をそのまま、顔の上に持って来て、年甲斐もなく、軽く手帳にくちづけた。

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