同居人は無口でクールな彼
どうしてわたしばかり……
ここでうじうじしていても何も変わらないのに、涙は止まらない。
そろそろ止めないと……
泣いていたことがお母さんにバレてしまう。
そう思って、一呼吸置いた時だった。
ガラッと勢いよく教室の扉が開いたのは。
「……っ!」
驚いて体を震わせると、扉を開けた人物と目が合った。
「まだいたんだ……」
彼はわたしを見るなり、そうつぶやいた。
泣いていることに触れるわけでもなく。
何を質問するわけでもなく。
ただ、静かに教室に入ってきた。
「いつも泣いてるね、野々村鈴香さん」
机の横にかけてあったお弁当の包みを取ると、彼はそれだけ告げて教室を出て行った。
彼は同じクラスの篠原翔哉くん。
今まで一度も話したことなんてなかったのに。
名前なんて憶えられてないと思っていたのに。
彼はわたしの名前を呼んだ。
しかもフルネームで。
それに、わたしが泣いていたことをどうして知っていたの?
“いつも泣いてるね、野々村鈴香さん”
たったそれだけの言葉なのに、わたしは嬉しかった。
わたしのことを知っていてくれたことも。
気にかけてくれたことも。
驚きと嬉しさで、すっかりと涙が止まっていた。