偽装夫婦のはずが、ホテル御曹司は溺愛の手を緩めない

 もう隠しても無駄だろう。

 そもそもあかりは彼に心配をかけないために、こっそりと再就職を探していた。響一の傍にいたくて、今までの関係をこの先もずっと続けたかったからこそ、秘密にしてきたのだ。

 なのに響一と喧嘩をしてしまったら意味がない。夫であり想い人である響一に『他に好きな人がいる』と誤解されるなんて本末転倒だ。

 だから素直に口にする。あかりが連絡を取っている相手は、響一が想像しているような人ではない。

「職業安定所……」
「……は?」
「働いてるお店が、なくなる予定なの」

 今から約三か月後、あかりが長年働いてきたリラクセーションサロンmoharaは立ち退き命令に従い、現在の営業場所からの撤退を余儀なくされる。

 また店長であり経営者である美奈の妊娠と彼女の体調を優先するという事情から、別の場所に移転して存続する予定もない。

 よってあかりは、このままでは来年度から無職になってしまう。そうならないために今から再就職先を探しているのだ。

「じゃあ隠れてスマートフォンばっかり見てるのは……?」
「転職サイトとか、求人案内とか、そういうの……」

 おそらく入谷家の御曹司である響一は、就職活動などしたこともないだろう。

 だが彼はホテルの総支配人を務め、経営者の一人として多くの従業員を抱える身だ。ならば自分が利用したことはなくても、転職支援サイトやインターネット上の求人の存在ぐらいは知っているだろう。

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