一途な御曹司は溺愛本能のままに、お見合い妻を甘く攻めて逃がさない

―――次の日の朝。

 朝食を終え、鷹也さんが仕事に出るその少し前に一人の男性がやってきて、その方を鷹也さんから紹介された。

「祖父の秘書だった城内っていうんだ。妻としての教育を中心に面倒見てもらう」

 城内さんは丁寧に90度のお辞儀をし、顔を上げると、私よりずいぶん背が高いことに気づく。

「元は会長の第5秘書をしておりました城内銀二と申します。本日より沙穂さんのお世話をするようにと仰せつかりました」

 年は40前後で、長身に少し長めの髪、前髪は少し左で分けていて、シルバーフレームの眼鏡をしている。たぶん、全方位、どこから見ても『仕事ができる』、そんな人だ。
 私は城内さんに、ぺこりと頭を下げる。

「城内さん、よろしくお願いします」
「奥さま、『城内』と呼び捨てでお願いします」
「でも……」

「他のものに示しもつきませんので」

 丁寧な言葉なのに、ぴしゃりと反論は許さない口調で言われると、ただ頷くしかできない。
 どこか近寄りがたい雰囲気を持っているのは、言葉のせいか、見た目のせいか……。

 そんなことを考えていると、城内さんは眼鏡を人差し指であげ、私をまっすぐ見据えて手帳を取り出す。
 そこには、パソコンのようなきれいな字で、私の大まかなスケジュールが書き込まれていた。

「お茶やお花、ピアノや音楽などの最低限の教育は受けてこられていると思いますが、それは本当に最低限のラインだと思ってください。この1か月で、ヒムロに関連する企業の上役のお顔とお名前を完璧に頭に叩き込んでください。それと並行して半年でイタリア語と英語。それからのこり半年でフランス語、ドイツ語、スペイン語の3か国語を叩きこみましょう」

 それを見せられて説明される。
 私は息を飲んで、頷いた。


「驚かれないんですね」
「鷹也さんの隣にいることを諦めたくはないんです」

 好きな人と結婚できるなんて、私には考えられなかった幸運なことだ。
 それを継続させるために頑張ってどうにかなることは頑張りたい。

 そう思っていると、城内さんが眼鏡の奥の目を細めた。

「それは良い心がけです」

 そう褒められてはいるが、その言葉でなんだか身が引き締まった。

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