一途な御曹司は溺愛本能のままに、お見合い妻を甘く攻めて逃がさない
鷹也さんは私の腕を取り、少し早口に告げる。
「すぐ荷物をまとめて戻るぞ、ローマに」
「やっ……」
私が何度も首を横に振ると、鷹也さんはまるで困った子どもでも見るみたいに優しく目を細める。
「どうして?」
「私はここにいます。私やっぱり日本がいいの。だから離婚を……」
「日本に住みたいだけなら一緒に戻れるように策を考える。どうしても離婚したいというなら、きちんと俺が納得できる理由を言え。そうでないと俺は沙穂を諦めない」
(諦めない、なんて……)
その言葉に、胸がぎゅっと掴まれる。
(どうして、そんなこと言うの?)
離婚届だけを置いて、突然、行方をくらませた妻。
しかも勝手にローマを出て日本に……。
もっと怒って、そんな奴はこっちから願い下げだって言ってくれた方がよっぽどいい。
この人はいつも、なにもかも余裕の表情で、何でもそつなくこなす。
そして、私が何をしても、本気で怒らない。
―――本気で私に向き合う事なんて、きっと一生ない。