一途な御曹司は溺愛本能のままに、お見合い妻を甘く攻めて逃がさない
夜、鷹也さんが帰ってきたとき、私はできるだけいつも通りに微笑む。
「お帰りなさい」
「ただいま。今日はなにしてた?」
「イタリア語のレッスンのあと、街をお散歩してました」
私がいうと、鷹也さんは眉を寄せ、私の顔を訝し気に覗き込む。
「それだけ?」
「はい。後は家に戻って本を読んでました」
私は本のことを言ってから、あの写真を思い出し、それに少し後悔していると、鷹也さんは眉を寄せる。
そして、そう、と呟くと私を抱きしめた。
―――この抱擁はどんな意味があるんだろう。
これまで、私が鷹也さんのことが好きで、好きで、浮かれていただけだろうか。
鷹也さんはいつだって優しくて……きっと誰にでもそうなのに。
そう思うと胸が苦しくなって、目を瞑る。
抱きしめられた腕をそっと剥がすと、
「あのっ。今日は、あの……そういうことできない日なので」
思わずそう告げていた。
生理は今日は終わっているのに……。
「まだ終わってない?」
「はい。あの……鷹也さん、身体が冷えてますから先にバスルームで温まってこられては?」
私は慌てて話を逸らす。
「そうだな。たまにはそうしようか。沙穂に風邪をひかせるわけにもいかないからな」
鷹也さんは私の頭を軽く叩くと、バスルームに向かった。
私はその背中に向かって、ありがとう、と呟いていた。