教育的(仮)結婚~残念御曹司(?)のスパダリ育成プロジェクト~
 だが、このままではやはりあきらめられない。
 それができるくらいなら、ここでこんなことはしていない。

 とはいえ、過去につらい思いをした亜美を追いつめるようなことだけはしたくなかった。
 思いが通じなくて無理に迫れば、彼女を傷つけた下種野郎と同じになってしまう。

「……うーん」

 俺は腕組みして考えた挙句、とりあえず数日間このカフェに通ってみることにした。というか、他に何も思いつかなかったのだ。

 ここでしばらく亜美の様子を探り、おりを見て時間をもらうつもりだった。
 それで結局断られるなら、自分の中でなんとか決着がつけられ……そうな気がした。

 というのも、父に亜美のこととこれまでの状況を話したところ、幸いにも一週間ほど猶予をもらえることになったのだ。
 その間は正午から出社して経営管理本部の各部所で経営や財務の知識を自分に叩き込むーーそれを条件に午前中の自由時間をゲットすることができた。

 勝負は開店からの約一時間。

 気が利く敬ちゃんが店に話を通してくれたので、それからは毎日顔を出しても怪しまれることなく、俺はほぼ指定席となった窓際で、『エクセレント・ラウンジ』を観察し続けた。

 異変が起きたのは、通い始めて四日目のことだ。

 そろそろ亜美に声をかけるべきか、それとももう少しだけ待つべきかーー俺がコーヒーを飲みながら迷いに迷っていた時、その男がカフェに入ってきたのだった。
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