教育的(仮)結婚~残念御曹司(?)のスパダリ育成プロジェクト~
「ああ、そうだったのか」

 唐突にいろんなことが腑に落ちた気がした。

 ふだんは他人に興味のない俺が、何で彼女の名前だけはちゃんと覚えていたのか?
 いつもは捨ててしまう名刺をどうして手帳に挟んだのか?
 なぜ、また会いたいなどと思ったのか?

(俺は――)

 亜美と出会った瞬間、たぶん恋に落ちてしまったのだ。

 その自覚はなかったし、あの日は疲れていて、気もそぞろだった。
 それでも実際にはかなり動転していたのだと思う。

 どうしていいかわからなくなった挙句、あの場でうたた寝したり、ろくに話もせずにサロンを出たりしたのだろう。
 翌日、亜美がホテルを訪ねて来てくれた時も、今と同じくらい胸がざわめいたのだから。

 ローマで数日を過ごした後、彼女に抱いた気持ちは錯覚ではなかった。

 俺は今も亜美を愛しているし、心から結婚したいと思っている。
 すぐさまここを飛び出して、連れ去りたいくらいに。

 だが、彼女の方は俺をどう思っているのだろう?

 ――林ちゃんの話を整理すると、桐島にふられたってことだろう?

 唐突に、敬ちゃんの容赦ない言葉がよみがえった。

 そうだ。俺は確かに亜美に逃げられたのだ。その事実を依然として受け入れられずにいるし、ずっと引きずってしまいそうだけれど。
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