教育的(仮)結婚~残念御曹司(?)のスパダリ育成プロジェクト~
もちろん考え過ぎかもしれない。
だが、わざわざ今日を選んで声をかけてきたことが気になった。なぜかはわからないものの、林太郎さんは田島先輩が来ると知っていたのかも――。
とはいえ、今は接客中なのだ。私は気持ちを切り替え、田島先輩に声をかけた。
「あの、外商の矢野がまだのようですが」
「ああ、彼なら来ないよ。ここは予約だけしてもらったんだ。今は実家の方に行ってると思う」
「……さようでございますか」
途端に、言いようのない不安に襲われた。
何か見えないものに、じわじわ巻きつかれていくような嫌な感じ。
今日はスタッフのひとりが遅番で、もうひとりは年休。あとのひとりは打ち合わせに出ていた。ちょうど林太郎さんがローマのサロンを訪れた時と似た状況だ。
あの時も彼の強面ぶりに動揺したが、今みたいに怯えたり、妙な不快感を覚えたりはしなかった。
田島先輩とは、決定的な何かがあったわけではない。交際を迫られ、両腕をつかまれて、強引に地面に押し倒され――そこまでで、なんとかことなきを得た。
それでも私は何年も悪夢に悩まされるくらい傷ついた。
今だって、少しずつ脈が速くなっているけれど。
「では、どうぞこちらへ」
かなり動揺しているはずなのに、身体は勝手に動いた。
たとえどんな相手であろうと、目の前にいるのは高砂百貨店を訪れてくださった大切なお客様だ。とにかくベストを尽くさなければならない。
だが、わざわざ今日を選んで声をかけてきたことが気になった。なぜかはわからないものの、林太郎さんは田島先輩が来ると知っていたのかも――。
とはいえ、今は接客中なのだ。私は気持ちを切り替え、田島先輩に声をかけた。
「あの、外商の矢野がまだのようですが」
「ああ、彼なら来ないよ。ここは予約だけしてもらったんだ。今は実家の方に行ってると思う」
「……さようでございますか」
途端に、言いようのない不安に襲われた。
何か見えないものに、じわじわ巻きつかれていくような嫌な感じ。
今日はスタッフのひとりが遅番で、もうひとりは年休。あとのひとりは打ち合わせに出ていた。ちょうど林太郎さんがローマのサロンを訪れた時と似た状況だ。
あの時も彼の強面ぶりに動揺したが、今みたいに怯えたり、妙な不快感を覚えたりはしなかった。
田島先輩とは、決定的な何かがあったわけではない。交際を迫られ、両腕をつかまれて、強引に地面に押し倒され――そこまでで、なんとかことなきを得た。
それでも私は何年も悪夢に悩まされるくらい傷ついた。
今だって、少しずつ脈が速くなっているけれど。
「では、どうぞこちらへ」
かなり動揺しているはずなのに、身体は勝手に動いた。
たとえどんな相手であろうと、目の前にいるのは高砂百貨店を訪れてくださった大切なお客様だ。とにかくベストを尽くさなければならない。