教育的(仮)結婚~残念御曹司(?)のスパダリ育成プロジェクト~
 今までどおりにやんわり攻め続けても、埒があかないと思ったらしい。

 田島という男は散歩を楽しむ彼女を待ちかまえ、強引に交際を迫ったという。
 どういう思考回路をしているのかわからないが、実は亜美も自分を好きなのだが、気を引くためにあえてデートを断り続けていると思い込んでいたようだ。

 人通りの少ない早朝だ。
 場合によっては、無理にでも彼女を自分のものにしようとしていたのかもしれない。

「お、おい!」

 動転して立ち上がった俺に、敬ちゃんが「落ち着けって」と声をかける。

「大丈夫だ。何もなかった」
「何も――」
「本当だよ。そりゃ抱きつかれたとか、キスされそうになったくらいはあったかもしれないが……ちょうどレタス農家の軽トラが通りかかったんだよ。収穫作業の帰りだったらしくて、田島を引き離して、桐島を合宿先のホテルまで送ってきてくれた。俺は社会人だし、相談役みたいな感じで、その時に事情を聞かされたんだ」

 その件は敬ちゃんとサークルのトップによって処理され、田島はほどなく部を辞めた。ことを荒立てない代わりに、亜美に絶対近づかないことを約束させて。

 そう説明されても、俺の頭の中は煮えたぎっていた。怒りのあまり言葉が出てこない。

 何もなかった? それで済ませていいことじゃない。

 たとえ未遂だったとしても、亜美はどんなに怖かっただろう? どれほど傷ついただろう? 身勝手で話の通じない大馬鹿野郎のせいで。
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