教育的(仮)結婚~残念御曹司(?)のスパダリ育成プロジェクト~
(くそっ!)

 柔らかな営業スマイルと洗練された接客マナー。
 亜美はひと目で有能なプロフェッショナルとわかるし、信頼したくなる雰囲気をまとっていた。
 俺を徹底的に変えてしまったのだから、実際にもそうだったことは証明されている。

 それでも彼女の笑顔はどこかさびしげに思えたのだが……なんとなく覚えていた違和感は、俺の気のせいではなかった。 

 きっと今だって完全に立ち直ったわけではないのだろう。亜美はまだその時の痛みを引きずっていて――。

「敬ちゃん、そいつも大柄だったのか?」
「えっ?」
「ローマに電話してきた時に言ってただろ? 彼女は俺みたいにでかくて物騒な男は本来得意じゃないって」
「そうだったかな」
「そいつ……俺に似ていたんじゃないのか? もしかして亜美さんが俺の前から消えたのは――」

 一瞬、周囲が真っ暗になったような気がした。

 確かに亜美は結婚を承諾してくれた。

 しかしもし当時のことが、俺との関係に重なったのだとしたら?
 その結果、耐えられなくなって姿を消したのだとしたら?

(もう無理かもしれない)

 別離の理由が恐怖なら、俺にはどうすることもできない。

 急に足から力が抜け、ソファに座り込んでしまう。
 どうしていいかわからず、俺は頭を抱えて大きく息を吐いた。
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