教育的(仮)結婚~残念御曹司(?)のスパダリ育成プロジェクト~
「だから彼女――」
「林ちゃん」

 敬ちゃんの声は優しかった。
 あきれたような、けれども穏やかな響きに励まされ、俺はのろのろと視線を上げる。

「桐島はそんなにヤワじゃない」
「えっ?」
「確かにあの時は本当に怖かっただろう。今もトラウマになっているかもしれないが、もちろんそれは本人にしかわからない。だけど……あいつはローマでお前のそばにいたし、結婚したいと言ってくれたんだろう?」
「……うん」

 フェリチタ庭園で微笑んでいた彼女の姿がよみがえった。
 日差しの中で頬を少し紅潮させ、しっかり頷いてくれた亜美。

 ――私、うれしくて……本当にうれしくて……だから声が出なくて。

 彼女の笑顔を思い出したら、なんだか心の奥がほんのりあたたかくなったような気がした。

「うん!」

 俺は両手を握り締め、何度も頷く。

「うん、そうだ。結婚すると言ってくれた!」
「そうか。だったら原因は他にあるな」
「は?」

 過去の事件が関係ないとわかって安心したものの、問題が解決したわけではなかった。

 いや、見方によってはさらに事態が悪化したともいえる。亜美がいなくなった理由について、俺にはまったく見当がつかないのだから。
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