教育的(仮)結婚~残念御曹司(?)のスパダリ育成プロジェクト~
「他に……」

 腕組みして考え込んでいると、敬ちゃんが「俺はなんとなくわかる」と呟いた。

「な、何だよ? 教えてくれよ、敬ちゃん、お願いだ!」

 俺は慌てて立ち上がり、幼なじみに取りすがる。そうしろと言われれば、土下座だってしただろう。

「だめだ」
「えっ?」
「それは林ちゃん自身が見つけて、自分で解決しなきゃいけないことだろ? 桐島のためにも」

 その答えを聞いて、俺はただ呆然としていた。
 悔しいし、気持ちは焦っていたが、まさに彼の言うとおりだったからだ。

 返事もできずにいる俺を見かねたのか、敬ちゃんが苦笑しながらコーヒーを口に運んだ。

「最近メンズフロアの一角にカフェができたんだ。そこのコーヒー、けっこういけるぞ」
「コーヒーなら今飲んでる」
「まあ、聞けよ。そこからはふだん桐島がいる『エクセレント・ラウンジ』がよく見えるんだ。しかもあっちからは死角になっている。しばらく通って、策を練ったらどうだ?」

 敬ちゃんは俺を見据え、「最近うちのメンズフロアをうろついていただろ」と問いかけてきた。

「お前、思いきり不審者扱いされてるぞ」

 特に問題は起こさないものの、でかくて、目つきの悪い男が毎日ウロウロして困っている――敬ちゃんのもとに、そういう報告がスタッフから上がってきているそうだ。

「林ちゃんだろ?」
「えっ?」
「林ちゃんだな」
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